福岡高等裁判所 昭和37年(ネ)424号 判決 1965年7月19日
控訴人 別府次郎 外一名
被控訴人 国
国代理人 大道友彦
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
控訴費用は控訴人等の負担とする。
事 実 <省略>
理由
当裁判所は、控訴人等の本訴請求を失当として排斥すべきものと判断するが、その理由は左記説示を附加する外原判決理由と同一であるから、これを引用する。
一、成立に争のない甲第五三号証(金子金平調書)、原審及び当審証人安川登、同大木実、原審証人辻貫一、同松永要三郎、同岡沢平次郎の名証言によれば、控訴人等板付飛行場用地の旧耕作者の一部は、同用地の内飛行場の建設及び運営に支障のない個所において本件買収後も従前通り耕作を許されていた事例のあることが認められる。しかし前記各証拠を更に検討すれば、このように旧耕作者が耕作を許されていたのは軍により事実上黙認されていたに過ぎないと推断され、したがつて右耕作の事実は本件買収に際し小作契約が合意解除されたとの原判決の認定を左右するに足りない。
一、原審及び当審証人黒田治夫の証言によれば、軍が板付地区農地の離作料として本件土地を含む右農地の小作人に対し支払つた金額は、当時福岡県下一般において慣行として授受されていた離作料の金額に比し相当低額であつたことが認められる。しかし前記甲第五三号証及び原審証人金子金平の証言によれば、軍の支払つた前記離作料の金額は全国的基準にしたがつたものであることが認められ、当時いわゆる国家総動員の建前の下に物心両面の犠牲的行為が要請されていた状勢を考慮に容れるならば、前記離作料の金額が低きに失していたからといつて、該金員が小作権放棄の代償たる性質を有しないということはできない。
一、当審における前記黒田証人及び証人斎藤久雄の各証言中、原判決の事実認定に反する部分は、原判決採用の各証拠に照らし、採用することができない。
よつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 池畑祐治 佐藤秀 石川良雄)